東京丸の内に“静嘉堂文庫美術館”という美術館があることを今回初めて知った。
まずは私の場合、世田谷区岡本に“静嘉堂文庫”というものがあること自体存じ上げなかったのだ。
三菱財閥の2代目岩崎彌之助(創業者・岩崎彌太郎の弟)と息子の岩崎小彌太の所有した古典籍や古美術のコレクションを収蔵していて、古典籍を研究者向けに公開する専門図書館の“静嘉堂文庫”。
静嘉堂文庫の所蔵美術品を一般公開するギャラリーとして、1992年に同じ土地に(旧)静嘉堂文庫美術館が開館し、2022年10月に丸の内・明治生命館に展示部門を移転し現在の静嘉堂文庫美術館(愛称・静嘉堂@丸の内)が開館した。
ということなのだそうだ。
そして、近頃ハマっている“刀剣乱舞ONLINE”繋がり(X記事)で静嘉堂文庫の所蔵する刀が公開されるという展覧会案内を見て『いや、刀よりメインの物が観たい!もちろん刀も観たいけども。』と、楽しみにしていた。
世界に3つしか現存しないという“曜変天目茶碗”は全て日本にある。国宝指定されている3つの内の1つを静嘉堂文庫が所蔵しているのだそうだ。
焼き物や茶道、古美術品に詳しくないし特別な興味がない私でも、その存在や希少性は知っている。
今回の展覧会は黒い釉薬に浮かび上がった模様が印象的な曜変天目茶碗を目玉に、黒い色彩をテーマに刀剣や焼き物などの工芸品が展示された。
そんなわけで、静嘉堂文庫が所蔵している刀の擬人化である刀剣男士“後家兼光”のパネルも期間限定で展示されている。初めのフロアには色々な天目茶碗が紹介されていた。
まず天目茶碗が何ものなのかもよく知らなかったわけなのだが、元々は中国の天目山一帯の寺院で用いられた、鉄釉をかけて焼かれた陶器の茶碗のことだそうだ。
天目山に留学した日本の禅宗の僧が茶碗を持ち帰って広まり、鉄釉のかかった茶碗のことを天目茶碗と言うようになった。
釉薬に含まれる鉄分の量によって色合いが異なり、色が薄めだったり茶色のものもある。
曜変という言葉は元は窯変と書いて、窯で焼いている間に予期せぬ変化が起こったことを指していたが、星のような文様から曜の文字が当てられたというのは詩的だなと思う。
次に蒔絵などの漆工芸、刀などの鉄の工芸品が展示されていた。
[刀 大磨上げ無銘(号・後家兼光)]14世紀(南北朝時代)長船兼光の作とされる。
直江兼続の愛刀で、没後に未亡人となった妻により主家に献上されたので“後家兼光”と伝わったとある。
[太刀 銘 良房]
備前の刀工集団、福岡一文字派の一文字良房による。
刃文が独特で見入ってしまった。
[刀 銘 源清麿/弘化丁未年八月日]
幕末江戸の名工、清麿によるもの。
刀の刀装具(付属品)である三所物も細工が凝っている。
[花鳥図大小鐔・三所物] 19世紀(江戸時代)石黒是美
黒と金のコントラストが効いている。
それにしても、平日の午後だというのに混んでいる。曜変天目茶碗以外はスマホやタブレットのカメラでの撮影が許可されているのだけれど、なかなか撮りたいものを撮るのが難しかった。
そして、やきものの展示から曜変天目茶碗の展示フロアへと繋がっていく。
[白地黒掻落牡丹唐草紋枕(しろじくろかきおとし ぼたんからくさもんまくら)]北宋時代(12世紀) 磁州窯
有色の素地を白土で覆い(白化粧)、その白土を部分的に削ることで素地の色と白土の色彩の対比で装飾を作る技法が磁州窯の特徴。
この“白地黒掻落”は黒と白の色彩をもっと強調する為に、白化粧の上に黒泥(鉄絵具)を塗り込めてからその黒泥の層のみを削り落として文様を浮き立たせるという技法だという。
何て手間の掛かることをしていたのか、よくそんな技法を思いつくものだ。
それよりも、そういうものだったと知ってはいたけれど『これが枕なのか~』と思ってしまった。
[黒地素三彩花鳥紋瓶(くろじそさんさいかちょうもんへい)]
清時代(17~18世紀) 景徳鎮窯
景徳鎮は現代にも続いている中国の代表的な窯だし、私でも知っている景徳鎮の色使いが見て取れる。
宮廷で使う陶磁器を焼く窯で作られたものだそうだ。
パッと見は真っ黒にしかみえないのだけれど、光の加減で虹色に見えたりして綺麗なものだった。
江戸時代(17世紀) 野々村仁清
京焼の色絵陶器を完成させた陶工だそうだ。
描かれた吉野の夜桜も美しいのだけれど、壺の形も美しいと思うのだ。
そして最後に、他と壁を隔てたフロアに曜変天目茶碗がひっそりとケースに佇んでいた。ここは撮影禁止。
想像していたよりも小振りな茶碗だった。
最初に人の壁の間から背伸びをして上からパっと覗き込んだ時に、吸い込まれそうな感じがして思わず身体を引いてしまった。
星空、天球、というよりは、星雲や銀河といった星々の集まったものが散りばめられた宇宙というべきものがあった。
観にきてよかった。観られてよかった。もう一度くらい観たいなと思う。絶対にありえないのだが、小一時間くらい一人で対峙してみたい。
展示室から出て気付いたのだが、ただの展覧会の立て看と思った曜変天目が顔出しパネルだった。
穴が空いてるよ、こんなこと思いつかないよ。ミュージアムショップへ寄ったら、ほぼ実寸という“曜変天目茶碗ぬいぐるみ”が売っていた。
正確には本日分は売り切れていて見本だけが置いてあったということだが、10個とはいえ売れるものなんだなあ。さて、この美術館の内装も何やらスゴいなあと眺めたり撮ったりしてきたのだが、
この美術館が入っている“明治生命館”という建物自体が重要文化財だった。
旧・明治生命保険が業務拡大の為に建設した、昭和9年竣工された建物だ。太平洋戦争終結後にはGHQに使われたりという歴史も経て、1997年に昭和の建造物として初めて重要文化財に指定された。
せっかくだから、外の道路へ回って正面などを観てくるべきだったのだろうけれど、予備知識もなく来てしまって、美術館や周辺の人の多さに疲れていたのでやめてしまった。
ちなみに、トイレへ行ったりと中でウロウロした時に見付けて、近くにいた警備員に『撮ってもいいんでしょうか』と尋ねたりして幾つか気に入って撮ってきたもの。
こういうエレベーターいいなあ。日本橋高島屋のエレベーターも子供の頃から好きだったな。
随所にある装飾もいいんだよね。
観るべきものが沢山あって目が回ってしまったなどと考えながら、行きは地下鉄千代田線の二重橋前駅から来たが帰りは東京駅から帰ろうと、ゴールデンウイークの準備と思われる飾り付けなどをしている通りを歩きだした。ああ、途中から地下へ入ろうと思ったけれど、東京駅を見たら近くへ行ってみたくなるじゃん。駅前は観光と思しき多くの人々が記念写真を撮っていた。そういえば、こんな風にしみじみ眺めたのは初めてだったかもしれないなあ。
2 件のコメント:
綺麗に撮れてるね!
リーフレットからの写し(写し⁈)かと思ったくらい。
茶碗のぬいぐるみはね、きっと…
目玉のお父さんを入れるんだよ。
そんな人が、きっといると信じてる(^^)
美しいもので満たされた一日でしたね!
カメラでの撮影は禁止だったのでスマホで撮ったのだけれど、むしろカメラで撮った時よりも刀が綺麗に撮れていて、ちょっと空しくなりました。
刀よりも焼き物や建物が素敵で目の保養になりました。
ぬいぐるみの茶碗じゃ風呂にならないね。
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