CB400SFとの別れ

2013/04/20

結婚前、家人はHONDAのNSR250というバイクに乗っていた。レーサーレプリカというタイプだったので、ハンドルの前に風防が着いていて、いかにも速く走る為のバイクという感じだった。一応後ろに乗ることもできたので、私用のヘルメットを買って乗せて貰ったが正直落っこちそうでとても怖かったのを覚えている。
その後、やはりタンデムには向かないということで結婚を機にHONDA CB400SF(SuperFour)という、自動車教習所で、二輪の教習車でも使用しているごく普通の感じのバイクに乗り換えた。
NSRと較べると断然スピードの出方などが違い、その上排気量が上がったのでバイク自体が結構重く、身体が細くて鍛えていない家人は苦労していたが、それでも安定感があって、そこそこスピードも出る乗りやすいバイクだった(家人談)。

CB400SFであちこち観光に連れて行って貰った。家人が柏へ散髪に行く時はいつもバイクだった。道路が渋滞していても道幅のある道路なら車の間を抜けて行けるのでラクだった。夏に走ると街中は暑くても、自然の多い所を走るとこんなに風が気持ちいいのかと、アスファルトと土の温度差みたいなものを直に感じられることもあった。
勿論、真夏にはヘルメットを脱いだら頬の辺りに溜まっていた汗がボタボタ落ちる事もあったし(デブだから)、真冬に秋葉原へ行った時の帰りは夜だったので、ダウンコートを来ていても寒くて心臓バクバク歯がカチカチした事もあった。
マンションのバイク置き場に置いていて、部品を盗まれた事もナンバープレートを盗まれた事もあった。一緒に車に跳ね飛ばされたこともあった。行きは晴れていたのに、帰りは家人とズブ濡れで帰ってきたこともあった。
CB400SFとの付き合いは、私と家人との生活とほぼ同じ時間だけあったのだ。

でも、車は便利だ。猛暑だろうと、雨が降ろうと、荷物が多かろうと取りあえずは苦労なく移動できる。渋滞に巻き込まれても、そこそこは快適に過ごす事だってできる。何より、車は私と家人と交替で運転できるが、バイクは家人だけが運転しなければならない。
どうしても、CB400SFの出番が少なくなってしまった。機械は動かしてやらないと動かなくなる。
この春、丁度車検の時期だった。随分前から家人は悩んできて、悩み抜いた結果、手放すことにした。
カバーを掛けられて立たされているだけより、もっと沢山乗ってくれる人の所へ行った方が、バイクだって幸せだ。

買ったバイク店に相談すると、いわゆるメーカー純正店舗だけに安くしか買い取れないから、買取をしてくれる専門の所に訊いた方がいいと勧められ、バイク関連に詳しいミカコちゃんに相談して『○○と××や…は、悪徳業者だから』と教えて貰ったり、家人もネットで手放した人の経験談や色々な情報を見て、“GEOバイク”という所に来て貰った。(CDとかゲームとかの中古を扱うGEOと同じ)
ここは家人が夜、ネットから査定を依頼するメールを送ったら、すぐに返事が来たり“後で担当者から直接電話が行くから昼間の連絡先を”と書いてあったので、メールフォームに家人が携帯の番号を入れておいたら昼間どころかすぐに電話が来たという、異常に反応の早い店だった。でも、そういう所は何だか安心できる。
先に、他にもメールを送った所があるのだが、結局一度も返事の来なかった店もあるのだ。
担当の人は物腰の柔らかな人で、小さい懐中電灯でかなり色々な所をチェックし、事故やパーツ交換、自コケ(事故ではなくて自分の不注意でコケる)がなかったかとか、タンクに古いガソリンが入ったままな事など様々な点をチェックした上で、このバイクは現在もバージョンアップして販売されているので、初期型なだけに今のものより乗りにくい部分もあり、また沢山出回っているから高くは売れないことなど、でも見た目もきれいで傷んでいないから部分的なパーツ交換で直しやすいことなどをド素人の私でも判るような説明をした上で、純正店舗の倍の買い取り価格を出してくれた。これは、家人の予想も上回っていたらしく、
「よろしく、お願いします。」
と、なった。
書類手続きや代金支払いなど、全て終わった所でパラパラと雨が降り出す。
エンジンの掛からないバイクを上手にトラックに載せる担当者。
「行っちゃうんだなあ…」
と、急に淋しさが募る。
家人と2人、ただ黙ってトラックが見えなくなるまで見送った。